こんにちは食品工場従事者のサカイです。
全国ニュースで大々的に報道された「三幸製菓の工場火災事件」
「雪の宿」や「チーズアーモンド」の米菓で知られる「三幸製菓」の荒川工場で火災が発生。
この火災により6人が死亡。
防火シャッター前で68歳から73歳の女性4人が死亡。
ボイラー室付近で2人が死亡。
三幸製菓の工場では過去に〝ぼや〟が8件発生。
いずれも、作業工程中に生じるくずが炭化して発火したものとのこと。
本日の記事では食品工場従事歴15年のサカイが
- なぜこのような痛ましい事件が起こってしまったのか?
- 過去に8件もぼや騒ぎがあったのにも関わらず、なぜ改善されなかったのか?
- 亡くなった従業員はなぜ逃げることが出来なかったのか?
- 食品工場で起きうる事故について
など、実際に食品工場で働いているからこそ、今回の事件に対して思うことがありますので綴ります。
学生時代、ケーキ製造工場でアルバイト。大学卒業後1年半ニート生活を送った後、近所のコンビニ弁当製造食品工場でフルタイムのパート勤務。
その後、冷凍食品製造食品工場に転職。
食品工場で働き続けて早15年。
現在、係長職のアラフォー男です。
三幸製菓の荒川工場火災はなぜ起こった?
工場火災の原因は現在(2022年2月20日現在)警察が調査中とのことですので詳細は分かりません。
しかし、食品工場での火災の原因は大抵が
火の点けっぱなし
によるものです。
実際に火災があった時間帯「機械の火はついたままだった」と従業員が説明しているとのこと
特にフライヤーでの油調作業は非常に危険です。水は100度以上にはなりませんが、油は加熱し続けると
200度
300度
400度
と上昇します。
300度を超えると引火しやすくなり
400度近くなると油自体が発火します。
食品工場で使用する油は基本何度も何度も使いまわします。なのでフライヤーの底には製品のカスやコゲが沈下します。なるべくこまめにカスやコゲを取りますが、すべてを取り切ることはできません。
フライヤーは衛生管理をしっかりとしなければ、火の点けっぱなしやカスやコゲが原因で簡単に火災が発生してしまいます。
「火の点けっぱなし」なんて初歩的なミスが起こるものなの?
三幸製菓のような大規模な大手の食品工場で「火の点けっぱなし」なんて初歩的なミスが起こるのか?と疑問に思う方も中にはいるのではないでしょうか。
これは、大手の工場だろうが零細工場だろうが起こります。
結局は、操作するのは人なのでミスはあります。食品工場の仕事は基本毎日同じ作業の繰り返しなので、気が緩んでしまう人が中にはいます。
- 火は消したか
- 元栓は閉じたか
- 換気扇は消したか
- 機械に破損はないか
などをチェックするチェックシートなんかも一応用意されています。しかしチェックしないでチェック欄にチェックする人もいます。
チェックのゲシュタルト崩壊起きるわ
最近の機械だと自動で火が消えるオート機能やセーフティ機能がありますが、食品工場には昔ながらの機械が依然として活躍していることが多いので、結局は人にかかっています。
過去に8件のぼや。なぜ改善されなかった?
今回の事件で、サカイが最も注目したポイントは
過去に8度もぼやがあった
という事実です。
普通は一度でも工場内でぼやが発生し事件になれば大問題です。警察や消防による捜査があるでしょうし、厳重に注意されます。
にもかかわらず8度のぼや。
なぜ、改善されなかったのか?
食品工場の閉鎖性
食品工場というのは毎日
同じ空間で
同じメンバーが
同じ作業をします。
非常に閉鎖的な空間と言えます。
サカイは取引先の食品工場の見学に行くことがありますが、
明るく元気に挨拶をしてくれる従業員ばかりの食品工場もあれば
よどんだ空気で雰囲気が悪くて誰も挨拶してくれない食品工場もあります。
この違いは何か?
これは「場」の違いです。
人が悪いのではありません。場が悪いのです。
人は場の空気に支配されます。
みんなが挨拶しないなかで自分だけ元気よく挨拶をしてたら浮きますよね。だから本当は挨拶をするタイプの人も場に合わせてしなくなるのです。
普段はあまり挨拶をしないタイプの人でも、周りがみんな元気に挨拶をしている場で働いていると、それにあわせて挨拶をするようになります。
特に日本人は場に合わせる傾向が強いです。
閉鎖的で新しい風が入り込んでこない食品工場(場)は、なかなか変わることが難しいのです。
なぜ逃げきれなかったのか?
お亡くなりになられた6名のうち4名は防火シャッターの前で倒れていました。
防火シャッターとは火災の際に火が広がらないようにするための防火壁です。煙感知器から信号が送られ防火シャッターが自動で降下します。
人がいるのに防火シャッターが閉まったら閉じ込められちゃうじゃん?
防火シャッターの近くには必ず扉やくぐり戸があります
防火シャッターの近くにはドアやくぐり戸が必ずありますのでそこから避難します。しかし、火災時はパニックになっていますし当時荒川工場は停電し暗かったようなので、ドアの存在に気づけなかったのかもしれません。
食品工場の建物はまるで迷路。従業員ですら把握していない。
三幸製菓・荒川工場クラスの大規模な食品工場の建物内は非常に複雑です。従業員でさえ、工場内の全貌を把握していない人もいることでしょう。
今回の事件で亡くなられた方はご高齢で機械の清掃のアルバイトとのことです。大規模な工場のアルバイトやパートとなると手広く仕事をするというよりは、一つの特化した仕事をひたすらやり続けることになります。
工場に入室したら真っすぐに自分が担当する部署の部屋に向かい、仕事が終わったら真っすぐ工場の出口に向かう。
自分の担当の部署以外の部屋に行くことはなかったのではないかと思われます。
実際にサカイも以前パートとして働いていたコンビニ弁当の食品工場は建物が大きかったので、5年程働いていましたが一度も足を踏み入れたことのない部屋がありました。
長く働いていたのに
- この部屋からこっちに繋がってるんだ
- この奥に部屋あるんだ
みたいなことも全然ありました。
それくらい食品工場の建物は複雑なのです。
防火シャッターの近くにはドアやくぐり戸が必ずある。
食品工場内は迷路のように複雑なので外に通じる避難路は把握しよう。
食品工場で起きうる事故について
食品工場では火災の他にも人命を落とす危険な事故が起こり得ます。
食品工場で起こるケガや作業事故についてはこちらをどうぞ。

上の記事では、転倒や火傷や切断などのわかりやすい事故について紹介していますので、以下では知識があれば防げる可能性のある事故を紹介します。
一酸化中毒
一酸化炭素は無色・無臭なので漏れ出ていても気づくことが困難です。
食品工場で一酸化中毒の事故が起こることは多く、実際にサカイの友人が勤める食品工場でも一酸化中毒が起こりニュースになったことがあります。
その工場で一酸化中毒になった原因は機械が大型のため細部まで管理できていなかったからだそうです。機械が大きいと清掃が大変なため、空気穴が製品のカスで埋まっていたそうです。
作業中に5人がバタバタと倒れ大事故になりました。
一酸化中毒の対策としてはこまめな換気と外気導入口が塞がれていないかの定期的なチェックです。
塩素ガス
食品工場の清掃時に大活躍する次亜塩素。
次亜塩素は非常に便利です。ブラシでゴシゴシ擦ってもとれない頑固な黒い汚れも次亜塩素を水で薄めた水溶液を撒くだけで驚くほど綺麗になります。
しかし、次亜塩素は取り扱いに注意する必要がります。次亜塩素と酸性洗剤が混ざると塩素ガスが発生します。塩素ガスとは有毒です。多量に吸い込むと死に至ります。
いわゆる家庭で使う洗剤に表示されている「まぜるな危険」というやつですね。
具体的な商品名で言うと
塩素系の洗剤(キッチンハイター、カビキラー)
と
酸性系の洗剤(サンポール、クエン酸)
が混ざると有毒ガスが発生します。
「まぜるな危険」という表示は世の中にあまりにも溢れているので「たいしたことないでしょ」と侮ってはいけません。軽んじてはいけません。
次亜塩素と酸性洗剤から簡単に生じる塩素ガスで人は死に至ります。
塩素ガスは化学兵器としてシリアが戦争で使用しています。サリンなどと同等に恐ろしい化学兵器なのです。
食品工場では大型連休前や監査前などに様々な洗剤を用意して大掃除します。その際は必ず「まぜるな危険」の危険性について注意喚起をしましょう。
おわりに
三幸製菓の工場火災について、食品工場従事歴15年のサカイが思うことを書きました。
何よりも、同じ食品工場従事者として、今回の事件で亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。
亡くなられた方6名のうち4名がご高齢のアルバイトの女性で就業時間も夜遅くだったということで
「こんな遅くまで働いてかわいそう」
というような意見をネット上でいくつか目にしました。
どうなんでしょうか…。実際のトコロはわかりませんが、食品工場で働いている方全員が別にいやいや働いているわけではありません。
やりがいをもって、機械の清掃に楽しさを見い出して従事していたのかもしれません。
工場火災の原因は三幸製菓側の不備が原因であり、その点には怒りしかありませんが、亡くなられた方々が従事していた雇用環境を一概に「かわいそう」というのは逆に失礼に当たるのではないかと思います。
サカイが現在働いている食品工場でも72歳の女性のパートさんがいますが、明るくて周りをいつも笑顔にさせてくれる素敵な方です。
誇りをもって働いている食品工場従事者はたくさんいます。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。